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Interview 04 西田英樹さん

2017/09/15

そんな嬉しいドラマもあるんですね。でも、それこそ、自分の子どもがまだ小さいのに夫婦で、交代で起きていなければならない時期があったり、他にもきっと生活する上で苦労されることも多いんじゃないんですか?

 

みなさんそうおっしゃいますけど。

まあ、休みとかプライベートな時間が取りにくいというのはありますけどね。友だちづきあいがかなり制限されますしね。予定が立てにくかったり、急なキャンセルもありえるので、断ったり迷惑かけるかもしれないと思うと「また、いつか…」となってしまいます。まあ、それでも付き合ってくれるのが本当の友人だと思っていますけど。

とはいっても、寮の状態が落ち着いていたら、夫婦がお互いに協力すれば、休みも取れます。
でもそれは、自営の仕事をされてる方も同じですよね。

この仕事は通勤がなく、決まった人としか接しないというか、変化が乏しいので、話題や意識が広がりにくいというか気分転換を意識的にしないと煮詰まっていくんで、苦労というか独特の感覚があって、それに対する様々な工夫や対策が必要かもしれません。

それでも、後輩職員が増えてくるようになってからは、僕が「しんどい」「たいへん」みたいなこと言ってたら後輩たちに夢がなくなりますからね。中には、教員してた先生が学校でできることに限界を感じ、もっと深く子どもと関わっていきたいということで、家族や人生をかけて、奥さんにも資格取ってもらってここに来てくれたという例もあるんです。

たいへんなことがあっても、まだ僕にやれることがあるんだったら、できることはやろうというのが今の僕の気持ちです。

 

同じ場所に住んでいるということは西田さんのお子さんたちも、寮の子どもたちとも交流はあるんですか。その辺のことがまったく想像がつかないんで…

 

娘が小さい頃は、それこそ生徒たちのことを「お兄ちゃん」って呼んで、

「お兄ちゃんたちに勉強教えてもらう」

とか言ってましたね。今では娘の方が年上ですけど、やっぱり「お兄ちゃんたち」という表現を使う時がありました。うちの子どもたちは、こういう環境で生まれ育ちましたから違和感はないと思いますよ。途中からこういう生活になったらどうかわかりませんけどね。

 

生徒さんたちに対するご自身の位置づけはどのようなものなんですか?
親代わりという感じなんですか?それとも、親とはまたちょっと違った感じですか?

 

自分自身の年齢や経験と共に立ち位置というか接し方は変わってきました。今の僕は年齢的に子どもたちの親御さんよりもちょっと上の世代になってきましたから、親の気持ちならこうだろうなとかいうのもあります。家庭によっても事情が違いますし、子どもの言い分もあるので、どっちの気持ちも尊重するように心がけています。

親代わりというより、それぞれの家族のあり方があると思うので、僕の性格もあると思いますが、あまり深く踏み込まないで、その調整役をしているというイメージです。

以前は「ここにいる間に変えないと…」みたいに思うことが多かったのですが、

「ここを出て、五年後でも十年後でもいいから、変われる何かを、自分を支える何かを一つでもいいから伝えられたらいいな」という思いも強くなってきました。

 

じゃあ、今度は入所してくる子どもたちについて聞かせてください。

 

今この資料(修徳学院の資料)を見ると、家庭裁判所や子ども家庭センターを通して、子どもたちはここに来るわけですよね。

ここに入寮してくる子どもたちというのは、問題を起こして入ってくる子が多いんですか?それとも、子どもではなく家庭的な問題で入ってくる子が多いんですか?

 

この施設は、子ども自身に非行や不良行為といった問題を起こした子が入ってくる場所です。家出や万引き、無免許運転などを繰り返している子や、大きな事件(犯罪)にまではなっていない場合でも、家庭の養育に限界を感じられたり、このままの状況ではエスカレートする可能性が高いと思われるケースなど様々です。背景として子どもたちの家庭環境が影響している場合も少なくありませんが、ごく普通の家庭で育った子もいます。子どもに問題がなくて家庭的な問題だけで入ってくることはありません。

 

ということは、入ってくるケースがひとり一人違うということですね。その子たちが、同じ屋根の下で生活していく難しさはないんですか?

 

めちゃくちゃあります。日々悩んでいます。

難しさということでは、個々の能力や体力、性格、学年がちがうので、ある子にとっては簡単にできることが別の子にはそうじゃないというようなことがたくさんあります。どの子に合わせるのが良いかという難しさがあります。対応を誤ると不平不満につながったり、できる子だけが発言力や立場を強くしてしまったりします。

ここでの生活は身の回りの掃除や洗濯、食器洗いなど当番も基本的には子どもたちがやります。そういう経験をすることで、これまで気付けなかった陰での支えや苦労を知ります。

大変な仕事を任せてもらうことに誇りというか、信頼してもらえている人にしか任せてもらえないんだと思えるような雰囲気作りをしていきます。

それが上手くいき、ある程度定着できれば、できない子がいても、その子をカバーする雰囲気や応援する雰囲気が生まれます。すると、自分もあんな先輩みたいになりたいというような言葉が出てくるようになっていきます。

いろいろ違う子の集団であることでいい意味で縦のつながりが出来たり、自信や自覚を持ちやすくなるように思います。

 

その指導の中で心がけていることは、ひとり一人違うということなんですか?

 

そうですね。例えば、小学生の子に、中学生と同じだけを求めても無理なこともたくさんあります。そんな時は「今日お前、カバーしてくれたよな」とか「知ってるよ。偉そうに下の子に言われていたけど、我慢してたこと、相手にしないで流してたやんな」とか

今までケンカで負けたことないですみたいな体ムッキムキの子が年下(小学生)に何かの理由で「殺すぞ」って言われて、クゥーっと我慢してね、

「僕、殺すぞって言われてじっとしてたん今回が初めてです」

みたいなことを言っていたことがありました。

「それは偉かったな 成長したな」って言ったりしました。

 

これ(資料)で見ると、子どもたちひとり一人はいつ入所してくるかわからないんですよね

 

関係機関(児童相談所)と入所予定のケースについて定期的に協議、調整する会議が事前にあって、入所させることが決まると、子どもの担当ケースワーカーから、その子についての事前説明があります。そして、男子の場合は(新入生担当の)観察寮に一旦入り、1ヶ月ほどすごして私僕が担当しているような一般の寮に割り振られます。

この施設には男子の一般寮が6つあるんですけど、週一人のペースで観察寮に入所があると、単純に一般の寮(西田さんは第四寮の寮長)からすると6週間に一人だから約一月半前後で一人ずつ新しい子が来るという感じになります。単純に順番という訳ではないので、いろんな事情で実際にはもっと早いペースだったりそうじゃなかったりはあります。

 

入ってきた子はどのくらいの期間寮に入っているんですか?

 

中学校三年の卒業を目処に、退所するというのが一般的です。逆に小学校からいる子は、僕はできるだけ一回地域の学校に戻してあげたい(家庭に戻す)という思いがあるので、実現にむけての調整や働きかけをします。それでも、なかなか難しいのも現実です。小学生でここに来るっていうことは、家庭的に厳しかったりすることが多いです。退所の条件の一つに、ここを出たあとの受け皿がどうかということがあります。入所する前とあまり変わっていなかったり、子どもにとって良い状況になっていないことが多く、子ども自身は変わっていっても戻る予定の環境が変わっていないと入所期間が長くなっていくことになります。

で、ここでの生活が長くなるとそれなりの問題もでてくるんですね。例えば、中学生に囲まれて小学生として一緒に生活をしているうちは、

「まあ、小学生だからね」

ということで大目に見てもらえるんですけど、そのまま中学生になっていくと、今まで甘えることができていたのに、自分より年下の子が来たら立場も変わってそれができなくなっていくんですよね。「反抗期」と言ってしまえばそれまでなんですが。

職員としては、長くつきあってきているんだから、「これくらいはわかるだろ」とか「お前だったら大丈夫だろ」って思うんですけど、子どもにしてみたら、今まで許してくれてたのに…となって、何かお互いにギスギスしてしまうことがあるんですよね。親子じゃないんですけど、毎日一緒に過ごしてきただけに、いろいろと複雑な感情も絡んでくるんです。そういうことも含めて僕としては、出来るだけ退所のチャンスをあげて欲しいと思ってるんですけどね。

 

じゃあ基本的には中3卒業を待たずに退所する子はいないということですか。

 

いや、そういうわけではないですよ。家庭にもどし、普通の中学に通うようにした子も全体で年に1~2人はいます。私の寮でも本当は中学校に上がる時点で出してあげたかったんですけど、ちょっと難しいということで、小学校の数年と中学1年の終わりまでを過ごしたあと中学2年生から地元の中学校に通うようにしたケースもあります。

 

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