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Interview 05 中野敏治さん

2017/10/20

 

あともう一つ私が気になっているのは、『不安感』ですね。子どもたちの中にいっぱい不安感があるのかなって思いますね。昔はこう、じゃれたりふざけあったりしてたのに、なんかこう、孤立しがちな不安感があるから、逆に友達を攻撃してしまったり。だから、本当はみんなが優しいんだよっていうメッセージをいっぱい伝えてあげたいって思うんですね。
7月の最初の朝会でそんな話をしたんです。

福島で「ひまわりプロジェクト」をされている半田真仁さんの『ひまわりが咲くたびに “ふくしま” が輝いた!』(ごま書房新社)という本がありますが、あの本を紹介したんですね。でもこの本の終盤には「いじめ」という言葉が出てくるんですね。

「ひまわりプロジェクト」というこんな素晴らしいことをやっている人が大勢いる一方で、『いじめ』をする人もいる。
人間の心っていうのは、本当はどっちなんだろうなって。
校長室の右側に、震災の復興の写真を今も貼ってあるんですけど、あの映像を流したんです。
その映像の中では、いろんな人が優しさをいっぱい出しているんですね。
その映像の途中で生徒に目をつぶってもらって、私がゆっくりしゃべり出すんです。

「今、みんな見てもらった映像は、気がつくと思うけどこんなにたくさん優しい人がいるんだよ。だから不安になることはないし、そんなに気負うことはないんだよ」

って。そしたら、泣き出す子がいるんです。生徒の中で。
そのとき私は、ステージからフロアに降りて生徒の近くで語ったんです。

「全然不安になることはないよ。ある子と上手くいかなくなっても、君に対して優しくしてくれる子は絶対にいるんだから、だからそういう不安はもう必要ないんだよ」

っていう話をしたんですね。そしたら、教師も泣いてましたね。

子どもたちっていうのは、純粋だけどつながり方がよくわからずに不安になっちゃうんだと思うんですね。だからつながりを求めてLINEのやりとりにはまっていってしまう。そこに入っていなければ自分の見えないところで何を話されてるかわからない不安もある。

大人もそうだと思うんですけれども。わからないところで私の悪口を言ってるかなとか、気にしだしたらきりがないですからね。そういう、不安を取ってあげたいなって思うんです。
そういう不安があるから、人をいじめる方向に走って行ってしまうんだと思いますね。

 

何に対してそんなに不安なんですかね?

 

孤立することじゃないですかね。
一人が恐いっていうか。今つながっている数人の友達が、自分の人生のすべてみたいな感じになってしまっていますからね。そこで孤立することに対して不安になっちゃうんでしょうね。

自信がないっていうか。なかなか子どもたちに自信をつけるのは難しいですからね。

「みんなが優しいんだよ、安心して」っていうのを子どもたちに伝えたいですね。

例えば携帯電話に限らずですけれども、道具を使うときには

「人が生きていく上では、人に嫌なことしちゃいけないんだよ」

ということは、伝えたいですね。
人に嫌なことをして、生きていくっていうのはそれはおかしなことなんだよと。

いじめもLINEも、自分のストレス解消のためとかいろいろ理由はあるにしても、何しろ、人に嫌なことをしないで生きていこうよ。
そこが一番の原則になると思います。人に嫌なことをしないで、人には感謝をして生きる。
人に嫌なことをした生き方は、やっぱり結局は自分が辛くなりますからね。
そんな話を、意図的に生徒にしていますね。

 

そうなんですね。では一方で、そんな中学生を子どもに持つ、今の親の世代に対して持っておいてもらいたい意識というのはありますか。

 

実際にスマホの問題は中学生だけではありません。
有名な『ママのスマホになりたい』って歌や作文ありましたよね。
ママは僕じゃなくスマホばかりを見ている。だから僕はママのスマホになりたいという…

ああいう状態で、「お母さん私の方を見て」っていうのが、もしかしたら子どもたちにはあるかも知れないですね。
思春期の子は、問題行動を起こすことで、こっち見てっていうサインを送っているかも知れないですからね。

以前、思春期の子どもたちを「シラスクジラ」と表現した人がいたんですね。
小さなシラスと大きなクジラ。体は大きいけれども、まだ子どもは心はシラスのように小さい。だから、粋がってみても親に甘えたい。その甘えたい心に気付いてあげられているかどうかですね。

まだ、巣から飛び立とうとしているひな鳥のような状況が、もしかしたら、思春期の子どもたちかも知れない。外の世界に飛んで行きたいという気持ちもあるけど、親が守ってくれる巣の中で温かさに包まれてもいたい。

中学校で見ると、一年生と三年生では本当に大きな成長があるんですね。
一年生はまだ巣の中に入っている子がほとんどですが、三年生はもう飛び立っているなぁって感じられる子が増えてくる。その、親から離れたい、でもまだ温かいところにいたいという葛藤、そういう状況が思春期かなと思うんですね。ですから、親も時には「ぎゅー」っと抱きかかえてやってもいいのかなと思いますね。思春期の子どもでも。

そして、家族のつながりを大切にして欲しいですね。家族で旅行に行くとか、今日はみんなで食事に行こうとかね。一緒にいてもみんなバラバラにスマホでつながっているんじゃなくて、一緒にいる家族でつながろうとすることが大事だと思うんですよね。

そういう、つながりというのは、見えないものですが、その見えないものが子どもを育ててくれるというのかな。言葉よりも気持ちが通じる部分というか。思春期の子は、多少悪いこともすると思うんですよね。でも、したときに、これお父さんに悪いなとか、お母さんに悪いなとか、こんなことしちゃいけないなとか、振り返りができるのは、やっぱり親の姿が見えたときだと思うんですよね。そのとき、親の姿が浮かんでこなかったからやっぱり厳しい。

そのためにも、スマホじゃなくて子どもを見て、時に包み込むような愛情を表現してあげながらつながりを作っていくことが大事なんじゃないでしょうかね。

 

たしかに、親の愛情だったり、甘えられるときに甘えていないといけないということなんでしょうね。

 

私も小学校の3年生の時だったかな。両親が共稼ぎで、家に帰って両親がいないと、学校でいろいろあったときは寂しくなっちゃって、押し入れの中に入って寝てたことがあるんですね。

 

そんなことがあったんですか?

 

今でも覚えてますね。

 

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