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Interview 06 濱田 実さん

2017/12/26

 

先ほど、子どもについて生きる力だったり、丈夫な身体だったりの話がありましたけれども、今度はその親御さんですね、保護者の関わり方についてうかがいたいと思います。

いわゆる、よかれと思ってやっていることが、結果的に子どもの可能性の邪魔をしてしまっているということがあると思うんですけれども、子どもの可能性を伸ばす育て方と、逆に子どもの成長の邪魔をしてしまう育て方の違いはどこにあるのか。幼児期の親の子どもに対する接し方で大切なことって、何なのか。そのあたりのことを聞かせてもらえませんか?

接し方で考えると、僕は、あまりこうあるべきというのはなくてですね、ただ、今は、ほとんどの家が核家族なので、子育てにふさわしい環境を完璧に整えることはできないと思うんです。思い通りになんていかないですよ、子育ては。

でも思い通り行かないと、朝だろうが寝る前だろうがガミガミ言ってしまう。これは、本当に子どもたちにとって良くない。だから僕は、寝る前と朝は決して叱ってはいけないって言うんです。けど、気持ちはわかるんですよ。そこには、痛烈な親の願いというか想いがあるし、同時にお母さんたちにも余裕がない。その最大の原因は核家族であるっていうことも大きいだろうし、社会的な不安などがあると感じます。そんなに心配しないでとて言ってくれる祖父母が一緒に住んでいない。地域社会の中でも支えてくれる人がいないことも要因だと思うんです。だから結局お母さん一人で子育てをすることになってしまっているんですよね。

僕はよく言うんだけれども、

「完璧な子育てなんて誰もしてないんだよ。でも、一生懸命子育てしてたら、子どもが親を育ててくれるよ」

って。

どんな子育てだろうが、子どもって許してくれるんですよ。虐待された子どもでさえ、絶対親を訴えたりしないし、親のことを悪くは言わない。親を守ろうとするんです。それは、子どもの本能かもしれない。

これは僕の勝手な持論ですけれども、子どもは親を育てるために存在していると思っているんですね。自分を一人の親にしてくれる。あるいは一人の立派な大人に育ててくれるために子どもは存在している。だから、子どもは親のどんな過ちも許してくれるんだと思うんですね。

僕はそれを、親御さんに知ってもらいたいんです。

だから、一生懸命やればいいんです。

それから、幼児期というのは、生涯にわたって持ち続ける我が子の長所や短所、いわゆる個性というやつが一番見えやすい時期だと思うんですよ。頑固だったりとか。でも頑固は、もしかしたら意志が強くて、何事も頑張り抜ける子という長所なのかもしれないし、長男にありがちな慎重で頼りという特徴も、もしからしたらそれは優しさだったり、丁寧さに変わるかもしれないし、その子の持っている真骨頂を、この幼児期っていうのは親御さんがしっかり観てあげるべきだと思うんですね。

あとは、親御さんも悩んだり失敗したりして親になっていくと思うんですね。もちろん失敗はしない方がいいとは思うけれども、でも絶対に幸せになってもらいたいという想いがあるから、求めすぎてしまうし、ついつい叱りすぎてしまう。そういったことに早く気付くためにも、我が子の見方は一つではないということを知っていて欲しいですね。喜多川先生や、比田井和孝先生、白石康次郎さん、脳科学者の瀧靖之先生、松居和先生等様々な分野の先生を園にお招きして、保護者向けの講演会をしていただいているのも、様々な考え方、生き方、ものの見方があることを知ってもらいたいからなんですよね。

ものの見方が変われば、今までイライラしていたことが、イライラする必要がないことだとわかることだってある。そうやって親御さんも勉強して気づいて欲しいんですよね。親御さんが変わると、子どもも変わりますから。だから子育ては学びあい、育ち合いですよね。

説明会で、

「幼稚園では、子どもはひっかかれるし、噛みつかれるし、押されるし、怪我もしますよ」

って話をするんですね。「幼稚園はそういうことが起こる場所です」ってね。でも、子どもが自分で何か解決しようと動く前に、いじめられたら親が動く、怪我をすると学校や園に文句を言う、他の子に押されたら担任が見てくれていないとナーバスになる、そうやって、理不尽なことを幼児期に全部親が取り除いていくっていう子育てをしていて、はたして子どもが、ちゃんと強く育つかってことは考えてもらいたいんですよね。

そもそも幼児期に、叩かれて人の痛みがわかるという経験がなかったり、噛まれたら痛いという経験が一度もない方が恐いことだと、僕は思うんです。理屈でいくら「噛んじゃいけない」と言われるよりも、その痛みを知る方が多くを学べることだってある。

世の中には理不尽なことをしてくる人が、これからの長い人生でもたくさんいる。それを避けることは不可能です。だから、その理不尽なことを乗り越えていく力を育てることがすごい大事だし、親御さんもそれを見守る心の強さを持っていなければいけない。そうでなければ子どもが幸せになることはできないですよ。そのことを入園説明会では伝えていますね。

でも、今の親御さんにはそれだけじゃダメなんですよね。説明を聞いたときは「なるほど」と思ってくれても、いざ自分の子どもが噛まれるとそれがどっかに行っちゃう。だからもう一歩踏み込んで、

「この園で起きたことは、すべて僕の責任だから、『○○ちゃんにやられました』とかは一切言わないです。全部僕の責任です。全部僕が責任を負う。この幼稚園で起きた出来事は、僕に言ってください」

って伝えます。そこまで言って初めて、叩かれたりなんかしたときでも親御さんが、それをちゃんと受け止められるようになるんですね。

 

「誰にやられたんだ」「あの子の親はどうなってんだ」じゃなくて、園の中で起こったことは、全部子どもを育てる肥やしにして、やった子もやられた子も成長するための材料にする。それが教育であり、そこで起こることは全部濱田先生の責任、いわゆる園長の責任で、幼稚園はそういうことを学ぶ場所だと思ってくださいということですね。

 

そうです。

 

それはでも、言うのも勇気がいりますよね。

 

そうですね。だけど、僕はこの仕事には、まあ、どの仕事もそうかもしれないけど、覚悟って大事だと思うんですよね。同時に、親御さんたちは、覚悟を持ってそう言ってくれる人を求めていると思います。
だから、僕は説明会でそれをはっきり言うし、それが嫌だったら『みのり幼稚園』に入れない方がいいって言います。
それは入園前だけじゃなく、入園後の父母会でも、常にお話しします。

子どもに降りかかる理不尽なことをすべて取り除いて育ててもいいですよ。全部過保護にして…ただし、親御さんが先に死ぬんですよって。子どもはペットじゃないですからね。ペットは、自分よりも先に死ぬから、猫かわいがりしててもいいんですよ。でも一人の人間を育てるというのは自分が死んだあとに、一人で生きていけるように育てなければいけないし、そのためには多くの人に支えられる人になっていく必要もあるし、支える側になっている必要もある。たくさんの理不尽なことを乗り越えられる強さも育ててあげなければ、生きる力なんて手に入らないですよって。そんな話をします。

だから、自分でできることは、自分でやらせてくださいって伝えます。その強さすら親にない場合がありますから。例えば、重そうな子どもの荷物を持ってあげるというのは、一瞬の優しさかもしれないですけど、僕はやっぱり自分の荷物は自分で最後まで持ち続けなければならないと思うんです。荷物は自分の人生にいつもあるものなのでね。それは、誰も手伝ってくれないですよ。

もちろん子どもが理不尽な扱いを誰かから受けるというのは親にとっては我慢ならないことかもしれないですけれども、「その子悪い子ね」とか、「先生に言ってあげるね」「どうして先生は動いてくれないの?」と反応する前に、まずは、「よく我慢したね」「痛かったよね、よく我慢できたね」って子どもには言ってあげてほしいんですよね。

もちろん先生たちはだいたい気付いているので、「○○ちゃんにやられました」じゃなくて、「すいません、お友だちに噛まれてしまいまして、私の目が行き届かなくって申し訳ありません」という電話を必ずするんですよ。それはすごい大事だと思うんです。けどそれ以上に、僕は、そういう理不尽なことだとか、辛いことだとか、そういうことは子どもが強くなるチャンスなので、「どういう方法でもいいから解決すること」を第一にして親が何とかしてしまうよりも、乗り越えさせるために、子どもの背中を押すことの方がすごい大事だと思うんですね。

例えば「やめて!」「痛い!」と大きな声で言いなさい。とか「先生にお話ししなさい」とその子の成長に合わせたアドバイスができるといいですね。

つまり幼児期は、「親子共育ち」という時期なんですよね。

子どももたくさんの初めての経験から対処法を学んで強くなっていく。それは親にとっても初めての経験で一緒に強くなっていく。

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