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Interview 02 望月龍平さん

2017/07/01

ということは『目的』が作品によって分かれているわけではないということなんですね。

分かれてはいないですね。
結局同じです。いつも『生きる』ということと『命のつながり』ということ。
でもやっぱり、言葉にするとそういうことって感じですかね、今は。

昨日とある方に、

「龍平さんて、お母様との結びつきがすごく強い方なんだって『鏡の法則』見たときからずっと感じていたんです」

って、言われましてね。実は、最近母が他界したばかりなんですが、僕は、全くわからなかったんです。そんな風に考えながら舞台を作ってはいなかった。でも考えてみると、例えば『君よ生きて』にしても母と息子というのが強烈にテーマとしてあるんですよね。

でも、自分では気付いてないんですよ。

再演を重ねていったり、また、いろんな経験をしたり、今回みたいに誰かの目に映る姿なんかを知ることで、自分の奥にある本当の『目的』を見つけていくっていうような感じなんですよね。

ある彫刻家の方がこんなことをおっしゃっていたんですけれども、自分が彫りたいものを彫るのではなく、木が『この中にこれがあるからそれを削り出せ』って言うんだそうです。その木の声を聞き取っていくらしいんですね。僕も、それに近いのかなぁと。

その目的を達成するためにも毎回いい舞台にしなければならないと思うんですが、出演される俳優さんが毎回違いますよね。そうなると俳優さんによって『良さ』がちがうと思うんですけど、その役者さんの『良さ』を演出家としてどのように引き出されているのかを、教えていただけますか。

それは、その都度、感覚的に試してみるしかありませんね。

例えば、次の舞台『文七元結』で「お兼」という役をやる富田浩児という役者がいるんですけれども、彼が、最初に『龍平カンパニー』に出演したのは、2015年の『君よ生きて』全国ツアーでした。『トシロウ』という船の上で死んでしまう役のオーディションで彼を選んだんです。

すごく誠実で一生懸命で、真面目なんですけど、面白くないんですよね。彼自身が出てこないというか。まあ当たり前なんですが、初めてなのですごい緊張してるんですよ。

そこで、「この緊張をどうやって外そうか…」と考えるわけです。

彼は、導入の現代のシーン…まだタイムスリップする前のシーンでは、『山岡』っていう『トモキ』の同期の男も演じているんですけど、その稽古で、考える余地をなくすってことをやってみたんです。芝居の稽古では『スピードスルー』と言って、あらゆる間を削いで、通常1時間のお芝居だとすると、それこそ30分で終わるくらいのスピードでやるんです。

間を削ぐということは、考える余地がなくなるので、どうしても感覚的にならざるを得ないんですね。そんな極限の状態にしておいて、彼に『オーダー』を出すんです。実際にやってみたのは、上司と電話しているシーンで「諺(ことわざ)を一つ入れろ」ということでした。

本人は必死で余裕をなくしているんですが、同時にやっててワクワクしているのもわかるんですよね。それを繰り返す。しかも「さっきとちがう諺で」って。

それを続けていると役者の枠が外れるんです。そして、気付くんですね。

「ああ、今まで考えてやってたな」と。

そういった枠を外したときに、彼そのものが出るんですよね。結局『個性』って無意識の瞬間の方が出てるんですよ。何気ないところで『卑しさ』が出てみたりとか、それこそ、『きれいな人を目で追ってしまう』とか。そういう無意識でやっていることが引き出せると、人間らしくて面白いんですよね。

それこそ、オーディションで初めて役を獲得した、駆け出しの役者さんから、僕が観たときには、超大御所の誰もが知っているような俳優さんが出演されていましたが、そういう方もいらっしゃって、そういう人の良さも舞台監督として、演出家として引き出していかなければならないわけじゃないですか。そこは、やはり苦労されるんですか?

喜多川さんがおっしゃっているのは「Twelve」だと思うんですけど、あの時は最初は本当に大変でした。僕の描いているビジョンにしても、言っていることにしても、全くわかってもらえないところからのスタートでした。それこそものすごいキャリアを持っている俳優さんばかりだったので、それぞれに持論もありますしね。

役者っていうのは基本的に『不安』な生き物なんですよ。

自分が板の上に立って自分そのものを出す。よく見られたいというのもありますけど、どちらかというと失敗に対する恐れを強く持っているんです。逆に、それがないと役者として魅力がない人たちになってしまうから、それはいいんですよ。でも、その『不安』は『不満』に変わりやすいんですよね。

僕と創作経験がある人たちは、「ああなるほどね」とか、「あの人の言っていることを信じていれば大丈夫だ」とわかってくれていますけどね。「Twelve」のときは全くちがったんです。だから、まずは、役者さんの意見も聞いて、でも絶対譲れないところは絶対譲らない。そういう感じの始まりでしたね。

好きなように演じてもらったあとで、『これも試してみてください』というやり方で、少しずつ僕のイメージに近づけていくんです。人間関係ができてくるとケンカもします。

「僕が観たいのはこうなんです」

と大先輩に対して言うわけですよ。

「やりゃあいいじゃないですか。できるのに何でやらないんですか」

って。やはり大御所さんは仕事に懸ける思いも一流なんですよ。その方はもう朝起きてから夜寝る前まで無意識でも言えるように徹底的に台本を頭に入れてきてくださったんですよ。でも、僕とぶつかるんですね。だから最後にはその方が、

「龍平くんと話してみて、今日は本番まで一切台本開くのやめてみた」

ということをおっしゃってくださって…、そうしたら、その回が、もう、素晴らしかったんです。

僕は、思わず『素晴らしかったです』って言いながら手を出していましたね。

そこは、やっぱりさすがだなと思いましたね。

そうやって、場合によっては、無意識に染みついているものや、習慣化してしまっているものを外していく必要もあるわけです。でも、方法は一つではありませんね。

なるほど、やはり毎回、人によって違うということなんですね。
もう一つ、龍平さんに劇で使われる音楽について、お聞ききしたかったんですけど、『君よ生きて』を観劇したときに、音楽にすごく心を揺さぶられたんですね。圧倒的歌唱力の素晴らしさもあるんでしょうが、それだけではない何かを感じたんです。音楽が、そのシーンのその場にぴったりと言いますか、本当にその瞬間のために神が与えたもうたメロディー・詩のように感じるんです。特に印象的だったのが劇中歌「メッセージ」だったんですけど。あれらは、どうやって生まれるんですか?

上手く言えないんですけど、神のシナリオっていうのはあると思うんですよ。人生でも。

あの構成に関して言うと、僕のアイデアを脚本家に渡して、脚本家が彼女のイマジネーションの中で上げてきたアイデアと、そこに『ユウサミイ』の、彼が今まで歩んできた中で生まれていた曲があって、それに脚本家の人が詩を当てはめていった。それがバッチリはまっていった。それに僕が盛りつけるというか、足したり引いたりいろいろして…。

サミイさんも人生の中でいろいろなことがあって、いろんな経験をしてきて、その中であの曲が生まれてて、でも、結局すべてはこのためにあったというんでしょうか。十年という時を経て、ここにポンて置いたときに、まさにそのためにあったかのようにはまっちゃった…みたいな。

そういうのを『神のシナリオ』と呼べると思うんですけど、『神のシナリオ』というは用意されていて、ある意味それを信じていいんだと思いますね。

だから、作ったというよりも、用意されていたという感覚ですね。僕たちを通してそこに出てきたということだと思いますよ。

なるほどね。僕が『小説』を書くときにもそういう瞬間があります。それと同じということでしょうね。
今日は、本当に長い時間お付き合いいただいて、素晴らしいお話を聞かせていただきありがとうございました。これを読む人の人生が変わるきっかけとなるようなお話もたくさんあったと思います。最後に1つだけ、龍平さん自身は、今後『役者』としての活動も続けられるんですか?

実は少し前まで「役者はもういいや」って思ってたんですよ。

ある意味、どの歯車になるかでしかなくて、別に役者じゃなくてもいいのかなってね。…でも、この間久しぶりに『君よ生きて』で役者として、『トモキ』という若者の役を年甲斐もなく演じたんですよね(笑)。そのときに、役者もやった方がいいんだろうなって思いましたね。どの歯車でもいいのであれば、『役者をやらない』とこだわるのもおかしなことですしね。そこに変に自分が逆らおうとしなくていいのかなと、今は思っていますね。

【プロフィール】

望月龍平

脚本・演出家

18歳で劇団四季に入団。

「CATS」「ライオンキング」「マンマ・ミーア」

「美女と野獣」「ウエストサイド物語」「エクウス」等に出演、

2008年の退団までにメインキャストとして、2500ステージを踏む。

退団後、俳優のみならず演出家・脚本家・プロデューサーとして異才をふるう、

今もっとも注目される舞台人。

【活動】

「twelve」、「鏡の法則」、「文七元結 the musical」、音楽劇「君よ生きて」など数々のオリジナル話題作を世に生み出し、演劇界の異端児として業界に風穴を空け続けている。

昨年は「君よ 生きて」の全国ツアーを実施し、33公演、5000人を動員した。

また、東京フィルムセンター映画・俳優専門学校  教育顧問として学生指導にあたり、劇団四季を始め、有名劇団に沢山の合格者を輩出。劇団四季とロンドンで学んだアプローチで、役者の感性を開く指導法に特に定評がある。

株式会社 蒼龍舎 代表取締役

龍平カンパニー 代表

株式会社 蒼龍舎 龍平カンパニー

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