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Interview 03 比田井和孝さん

2017/08/20

佐藤芳直さんとはどのようにして、出会ったんですか?

 

たまたま届いたDMです。

そこに、「これからの大学や専門学校が生き残るためには」みたいな感じで書いてあったんです。

そういった類のDMはよく届くんですけど、たまたま、ウエジョビが人間性を磨くということを言い出した時期で、そのDMにも同じようなことが書いてあったので、もしかしたら、このセミナーは今のウエジョビに必要なんじゃないかと、ふと思ったんですね。

ですからすぐに、佐藤勲校長(当時のウエジョビ校長)に、

「こういうセミナーがあって、この話を聞きに行きたいんです」

と、お願いしたら、「いいじゃないか、俺も行くよ」

ということになって、私と佐藤校長、二人で聴きに行ったんです。東京に。何万円も払って。

そしたら、もう、最初から衝撃の連続なんですよ。

例えば、佐藤芳直さんがですね、「みなさんのお客様は誰ですか?」と聞くんですね。

その頃の広報テクニックは、「オープンキャンパスで高校生をお客様扱いをして、気分良くさせれば学生が集まる」というのが主流ですよ。だから、芳直さんもそういうことをおっしゃりたいんだろうなぁと思って、

「お客様は誰ですか?」って聞かれたときに

「そりゃぁ当然学生でしょ」

と思ってたんです。

そしたら、芳直さんは

「まさかみなさん、お客様は高校生や学生だなんて思っていないでしょうね」

とおっしゃる訳です。もちろん、その保護者でもないと。びっくりしましたね。

芳直さん曰く、本当のお客様は、学生を送り出す先じゃないんですかと。

つまり、企業や社会、世間こそがみなさんの本当のお客様じゃないですか。そうおっしゃるわけですよ。

「であるならば、みなさんが一番やらなければならないことは、企業や社会や世間が喜んでくれるような学生を送り出すことであり、それができなければ、みなさんの学校に未来はない!」

…と言い切ったんですね。

それを聞いてね、「おぉー」って思ったんですよ。もう感動ですよ。

人の話を聞いて、今までの自分の考えが180度変わるっていうのは、人生でもそうはないですよ。まさに、それが起こったんですよ。

それはもう私の人生の大きな一つの転機でしたね。

それまでは学生がお客様だと思っていましたから、公務員になりたいっていう人を公務員にならせてあげて、資格取りたいっていう人に取らせてあげて、就職したい人は就職させてあげて…ってやってきていたわけですが、それで喜ぶのは、その学生か、せいぜいその親や親戚までじゃないですか。でも、もしも学生を、社会や企業が喜ぶような「いい仕事」ができる人に成長させて社会に送り出したら、その人と関わるすべての人が喜ぶ…つまり、その会社の上司も同僚も先輩も、お客様も喜びますよね。…もしも公務員になったとしたらですよ、市民、住民、国民が喜ぶぞと、これは凄いことだぞと、更にですよ、もしもそんな「いい仕事」ができたら、一番嬉しいのは、きっとその学生自身なんですよ。「俺には、人を喜ばせる力がある」って気付ければ大きな自信になりますよね。親はもっと嬉しいんじゃないですかね。もう、

「公務員に受かりました、やったー」

なんていうのとはレベルというか、質の違う喜びじゃないですか。我が子が、人を喜ばせられるようないい仕事ができる人間になれたっていうのは。

「これは凄い、もうスゲーこと聞いちゃった。芳直さんの言うとおりだ。ウエジョビでそんなことができたら、ウエジョビは間違いなく、50年後も100年後も必要とされる。こんな素晴らしいことはない」

…と、単純にそう思ったんです。

 

その話を聞いたときに、比田井先生のように「確かに」と感じる人は、他にもいらっしゃると思うんですが、実際にその実現に向けて舵を切るのは、もの凄く勇気がいることだったんじゃないかと僕は思うんです。それは、人間性を磨くということについてもそうですし、先ほど比田井先生は「反対する人はいないじゃないですか」おっしゃいましたけど、実はそこはハードルが高いところじゃないかと思うんですね。とりわけ、前からいた先生、これまでのやり方に慣れている先生たちにとっては…それを乗り越えるのは大変だったと想像するんですが、それはそうでもなかったんですか?

 

いやいや、そのあと難しかったです。

私はね、単純なんですよ。本当に単純なんです。良く言えば素直。

私は、それ聞いてまず、「スゲー」って思いました。こんな素晴らしいことはないと。だから私はもうこれしかないと思い込んでいるわけですよ。こんな素晴らしいことを反対する人なんているわけないと。だから、ウエジョビにこの話を持って帰ったらみんな誰だって、

「それはいい、やろう」

となるに決まっていると思っていますから。

で、帰ってきてまず主任会ですよ。そこで、

「いや、凄い話聞いてきました。これやりましょう」

とすぐに提案しました。

ただ、前の年に、人間性を磨こうと言ったけど、何も変わらなかったですよね。それなのに、もう一度同じことを言ったところで、また何も変わらないじゃないですか。

だから、何かわかりやすいものがないといけないと思って、そこではじめて三つの約束『あいさつ、掃除、素直』とを決めたんです。

で、それを実現するために、学生を募集する段階から本気で考え直すことにしました。

それまでみたいに「誰でもいいからウエジョビに来てください」って考えるのではなく、「少なくとも、ウエジョビの『理念』つまり、この三つの約束に賛同してくれる人だけに来てもらおう」と考えたんですね。

ところが、芳直さんのお話を聞いたのが10月8日で、実は10月1日から翌年の学生の出願が始まっていて、すでに合格者もたくさん出ていたんです。本来なら、三つの約束に共感できるかどうかを確認して、共感できる人だけを合格させなければいけないのに、遅かったんです。

それでも、やっぱりできる限り早く、それこそ次の4月に入ってくる新入生からそれをやりたいじゃないですか。そこで、合格者との入学前面談で、「実はウエジョビは、今度の春から『あいさつ、掃除、素直』の学校になります。本気でこの三つの約束に取り組む学校になります。皆さん、もう合格しているんですが、もしも、僕そんなのやりたくないです、私そんなんだったらウエジョビに来たくないですということだったら、どうぞ今からでも別の学校に行っていただいてかまいません」と言いましょう、ということになったんです。

保護者の方にもウエジョビの三つの約束を説明して、共感していただけたら署名してくださいとお願いをして…

そうやって新年度からの準備をしていきました。

そして、いよいよ三つの約束が始まるという直前の春休みに、掃除の責任者の先生が私のところに来たんです。「来年の掃除の計画ができました」って。

私としては、これからウエジョビは「あいさつ、掃除、素直」の学校になると宣言したわけですから、どんな計画ができたか楽しみにしていたんですね。で、どんな計画なんですか?と聞いたら

「いや、あの…基本的には今までと一緒なんですけど…」

と言うわけですよ。

こっちは「え?」と思いますよね。「すいません、いっしょ…ですか?」って。

「来年から、ウエジョビは『あいさつ、掃除、素直』の学校になるんですよね。それを学生にも言ってますし、保護者にも署名していただきましたよね。それなのに今までと一緒って…?」

と聞いたんですね。

もちろん、そう言えばその先生も「あぁ、まずかった…」とわかってくれたんですけど、私、そのときに、ちょっと嫌な予感がしたんですよ。

これね、この先生ひとりだけが勘違いをされてて、他の先生がみんなわかってくれているというのならいいんですよ。この先生にだけ説明してわかってもらえば済むわけですから。

でも、「もしかしたら、実はみんなそうなんじゃないの?」って思ったんですよ。むしろそうに違いないと。

で、これはまずい!と思いました。

学生にはさんざん「あいさつ、掃除、素直だ」って言ってきたんですよ。

ところが、いざ入ってきたら結果的にたいしたあいさつや掃除を要求されないとなったら、あの署名までした「本気」はそんなもんかとなるじゃないですか。だから、これじゃダメだと思って、美恵先生(現校長先生)とかにもいろいろ相談して、コンサルタントの方にも相談してみたんです。そうしたら「Mランド」(島根県益田市にある自動車教習所)の取り組みを教えてくれたんです。

Mランドでは、スタッフ研修として『Mランドを良くするための会議』が年に一回、夜通し行われて、それぞれが発表して、それがいいものなら、翌年それがMランドで採用される…と、そんな会議をやっているらしいぞと。実は、ウエジョビはそれまで校内研修なんて一度もやったことなかったんですよ。そういう文化すらなかったんです。だから、それはいいアイデアだと思いました。

結局、「あいさつ、掃除、素直」も上から言われたことなので、先生方にしてみれば、比田井先生だけが勝手に盛り上がって、急に三つの約束ができて、それをやってくださいと…そんな感じになっていたんですね。

人間、ただやらされているものって上手く行かないじゃないですか。でも、自分たちで、これがいいとかあれがいいとか言いあって出てきたものなら、取り組み方も違うじゃないですか。

なので、急遽、「校内研修をやりましょう」と言ったわけです。もう、新学年はすぐそこに迫っていますから。

テーマは「どうしたら三つの約束を学生たちに浸透させることができるのか」。それを先生方で話し合って発表してください、と、そういう会議を初めてやりました。

あれは良かったですね。

すると、当たり前なんですけれども、

「学生達にあいさつをさせようと思ったら、やっぱり、我々が先に挨拶をしないといけませんよね」

とか

「我々が一緒に掃除をしなければいけませんよね」

とか出てくるわけですよ。

「でも掃除というのはマニュアルが必要ですよね」

とかね…

で、その場で出てくるアイデアに、「いいですね」「そうですよね」と伝えていって…どんどん担当者を決めて実行していって…

その会議を経て4月が始まった。

いやぁ、そしたらね『あいさつ』が変わったんですよ。先生達からあいさつをすれば、学生も自然とするようになるんです。掃除も変わりました。

それを続けていきました。それから一年、二年は良かったんです。

 

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