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Interview 03 比田井和孝さん

2017/08/20

 

ということは順調に進んでいったわけではないんですね。

 

いろんな先生がいらっしゃいますからね。

だから、やっぱりそこに差はあるわけですよ。

クラスによる取り組みとか、先生の様子を見ていても、どれだけ挨拶を大事だと思ってくれているのかとかの差がね。まあ、それは当然あるわけですよ。

ですから、また、船井総研のコンサルタント方に相談して、私の方から、

「先生方に、ヒアリングをして欲しい」

とお願いしたんですね。私が自分で聞くと、きっと本音は隠して、

「『あいさつ、掃除、素直』あれ、いいですよね」

という反応しか返ってこないと思ったので、第三者のコンサルタント方にお願いしたわけです。

実は、三つの約束に関して、各先生による温度差はあるにしても、学校自体は凄く良くなっては来ているので、私の中では、ほとんどの先生が、

「三つの約束はいいですね」

とか

「さすが比田井先生ですね」

とか言ってもらえるもんだと思っていたんです(笑)。だから、コンサルタントの方に、ヒアリング「どうでしたか?」なんて元気よく聞いちゃったりなんかして(笑)

で、ヒアリングにはですね、… みなさん、本当に正直に話して下さったんですよ。

 

 

結局、みなさんから出てきたのは『不満』だったんです。

方針がガラッと変わった変化に対する不満ですね。

「人間性を大事にしましょう」

という話をして反対する人はいないですよね。

「来年は『あいさつ、掃除、素直』で行きます」

ということを言われても、

「挨拶なんて大事じゃないですよ」

なんて言う人もいないわけですよ。反対のしようがないんですね。

でも、それぞれに胸の中には思うことがあるんですよね。例えば、三つの約束は、トップの数名だけで決めたんですね。だから先生達の中には、相談もなく勝手に「あいさつ、掃除、素直」の三つに決められた…とか、大事な方針なんだから事前に話し合って欲しかった、という意見が出てきましたね。

あとね、なるほどなぁと思ったのは、あの頃、私は視野が狭くなって、もう一直線に「人間教育」というところに向かおうとしてましたから、「資格なんて」という言葉を普通に使ってたんですね。「資格なんかよりも人間性の方が大事だ!」って確かに言ってたんですよ。でもね、それまで一緒に働いてきた先生方は、学生に「資格をとらせるため」に一生懸命やってくださっていた先生達なんですよ。難しい資格でも、どうにか合格させられないかって、夜遅くまで残って工夫してやってきていた先生達からすれば、「資格なんて」って言われた瞬間に、今まで自分が必死でやってきたことを否定された気分になるのは、考えてみれば当たり前のことですよね。

で、そのヒアリングの報告書を受け取りました。するとそこには、

「比田井先生の言っていることは正しいのはわかるけど、今まで自分がやってきたことは何だったんだと正直思いました」

とか、そういう意見が無記名でブワーッと書かれてる。

私ね、その箇条書きを目の当たりにして、当然ですけど一瞬で「ガクン」ですよ。

もうね、俺は何をやってたんだと。落ち込んだんですよ。

人生において落ち込んだことっていうのは何度かはもちろんありますけど、まあ、あれは間違いなく、3本の指に入る、もしかすると一番かも知れない。まあそれくらいの落ち込みようですよ。

まあ、あまりにも落ち込んで美恵先生にも話せなかったですよ。

でもね、これが絶妙ですね。そんなどん底の状態の三日後くらいに、また、佐藤芳直さんのお話を聞きに行く機会があったんですよ。

そうしたら、その日の一番最初に話された内容が、

「自問て大事ですよね」

という話だったんです。

「自分に問うからこそ、人は成長できる」

と。で、佐藤芳直さん曰く、

「でも自問するってことは、そこにもう答えがあるからです。人間というのは、自分で答えがないものを自分に問うことはありません」

と、こうおっしゃるわけですよ。

もう、そんときメチャメチャ悩んでるじゃないですか。自問はしてるんですよ。

「俺は何やってんだ」って。

でも、そう言われて、自分の中に答えがあるんだと思ったときに、…確かにあったんですよ。

それは、

「これは、先生たちと腹割って話さなきゃダメだ」

という答えだったんです。

もう、それしかなかったんですよ。

その瞬間にね、涙がぼたぼたこぼれてくるんですよ。

講演が始まって最初の五分くらいで一人で泣きじゃくってるんです。

でも救われたんですよ。

「そうだ、これだ。腹割って話さなきゃダメだ」

って。

その時は、もう4月が明けて新学年が始まっていたんですが、それでも、すぐに先生方ひとり一人と一対一で面談をしたんです。これも初めてです。

そうするとね、やっぱり人間というのは一対一で、

「正直どうですか?三つの約束ってどうですかね?」

みたいな話をすると、話してくれるんですよね。

それこそ私が「資格なんて」って言ったときにどれだけショックを受けたかって話もしてくれるんですよ。

だから、私の方も、

「それはもう本当に申し訳なかった、おっしゃるとおりです、謝ります」

と心から謝りまして、その上で

「ただ、資格だけでいい仕事ができるわけじゃないことは先生もおわかりですよね」

と伝えていったんです。そうすれば「その通りだ」と言ってくれるんですよ。

そうやってしっかりと腹割って話ができると、やっぱり違うんですよね。お互いに言いたいことを言った上で、お互いのことを理解して心から納得できれば、潔く行動を変えてくれるんですよ。逆に、もう、やたらと

「三つの約束だぞ」

みたいな話を学生にしてくれるようになったんです。

それはウエジョビにとっては大きな転機でしたね。

この一件で、私はもの凄く学びましたね。

人間性が大事だとか、あいさつ、掃除、素直が大事だとか、それ自体は正しいことなんですけど、当時の私は、その正しさばかりを主張して、相手の立場とか今までの経緯を全く考えていなかったですから…。 先生方だっていろいろ考え方があるし、今までの実績や努力への敬意ももちろん必要だし…そういうのがだいぶわかるようになりました。

だけど、今思えばね、当時の私は『怖さ』を知らないから突き進むことができたんですよ。

だから、今思えばね、怖さを知らない私で良かったと思ってるんですよ。

 

それがないと、動けなかったかも知れない…ということですか。

 

そうなんですよ。動けなかったと思いますよ。

今なんてね、

「こんなこと言ったら、相手はこう感じるしな、時間懸けてやらないと」…とか考えますもんね。

あの当時はそんなこと考えないで、思いっきりいって、思いっきりぶつかっていったんですよね。その結果、思いっきり落ち込みはしましたけど、最終的には良かったと思っているんですね。そういうプロセスを経て、ようやく『三つの約束』がウエジョビの背骨になったんですね。

 

そうなんですね。

それこそ、今お話しいただいた『資格だけじゃない。資格を取った上で世の中に貢献できる人材を育てる教育機関に本当になる』という部分は、全国の専門学校が、本当は乗り越えたいけど、やっぱりできないと思っている壁だと思うんですよね。

学校がその一線を越えるためには、今のように、「来年からうちは変わります」となったときに、今教えて下さったように、入ってきてくれる学生が少なくなってしまうんじゃないかという怖さもあるし、内部的な、先生たちの反対だって予想できるので、なかなか言い出せない感じだと思うんですね。だけど、乗り越えなければならない。そういった場合に、どう乗り越えるかを教えていただけたような気がしますが、同じようなことを他の専門学校でもできますか?また、できるとしたら、今の比田井先生ならどう実現しますか?

 

もちろんできますよ。

私が専門学校に入って、同じような改革をして欲しいと言われて、それを引き受けたとしたら、もう少し上手にはできるんだとは思うんですけど、結局は、ひとり一人にちゃんと伝えるしかないと思いますね。

あの当時は、ちゃんとも何もないんですよ。

「あいさつ、掃除、素直。反対する人なんているわけない」

って感覚でやってますから。

今は、状況はわかりますから、一対一で先生にヒアリングをして、面談をして、人それぞれ考えはあるので、差はあると思うんですけど、その辺をおろそかにしないで、しっかり聞いて、こちらの考えを伝えていくでしょうね。

でも、それよりも何よりも、大事なのは『トップの本気さ』なんですよね。

ウエジョビにはそれがあったから、今のように変革ができたんだと思います。

人間性教育をしたいと現場の私が言ったところで、トップの佐藤勲先生が本気でそれをやろうと言ってくださらなければ、ウエジョビは変われなかったんですよ。

トップに『本気で変える』という気持ちがなければ、できないことでしょうし、逆にそれさえあれば、きっとできることなんだと思います。

 

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