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Interview13 武藤杜夫さん

2020/01/08

お仕事をされるにあたって、武藤さんが少年院に入ってくる子供に対して、最初接する際に、注意していることはありますか?

僕個人に関しては・・・やっぱり、真剣に向き合うことですね。僕みたいな子がいっぱいいるんですよ。

昔の自分みたいなという意味ですか?

はい、子供時代の自分を見ているような気持ちになって。少年院に赴任した瞬間、ものすごく、こう…「デジャビュ」ってあるじゃないですか?
なんか、あれを見ているような…

自分も一歩間違えれば、きっと、こういうところにきて、教育を受けさせられてもおかしくなかった立場だったし…
なんか、すべての子たちに自分を見ちゃって。子供時代に僕が大人と向き合ってもらえなかった穴を埋め合わせるみたいに、一生懸命その子たちと向き合ったんですよ。

武藤さんがそういう向き合い方をすることで、子どもたちの反応は最初からあるものですか?

反応は最初からありました。
やっぱり、きっと僕と同じだったと思います。どこかで真剣に向き合ってくれる人を探しているんですね。
向き合って欲しかったけど、向き合ってもらえなかった彼らが、きっと同じような波長を持った僕と出会って、だから、変化は早かったです。

僕も子供たちと向き合うのが楽しくて、楽しくて。夜勤って当直の日もあるんですけど、夜勤明けても、ずっと職場で子供達と話していて。仕事じゃない日も職場に行って、ずっと子供達と話して。半分少年院で生活しているような、最初そんな状態でしたね。

そこを子どもたちが出るとき・・・なんて言うんですか?

「退院」です。

そうか「退院」。少年院ですものね。退院した子供達の多くは、更生できるものなんですか?

はい…と、言いたいところなんですが…
実際のところは、3、4割くらいは少年院だったり、刑務所だったり、何らかの施設に戻ってくるっていうデータも出ているんです。退院したらハッピーエンドで人生が変わっていくんだったらいいんですけど・・・そうならないのも現実ではあります。

そうですね。そうなって欲しいですよね。…例えば、院の中で先生が接しているときに、この子は大丈夫だとかわかりますか?

ある程度は分かります。
少年院の中だけ、うまくやり過ごして、早く帰ろうっていう、そういう思いが根底にある子は、結局、何も学ばずに出て行ってしまうので、同じことの繰り返しで戻って来ますし。
逆に、少年院の中でいっぱい問題を起こしても、期間が延びて、先生といっぱい向き合った子たちの中に、色々な刺激を受けて変わったりする子も見てきました。

そういうこともあるんですね。変わっていく子には、共通項があるんですか?

そこはちょっとハッキリ僕のほうでは分からないですけれど…ただ、変わっていくのは早いし、みんな変わります、やっぱり。

朝、きちっと起きて、ごはん食べて、太陽の光を浴びて、夜は決まった時間に寝て、そして、人としっかり向き合って、物事を考えるっていうことを繰り返していくと、どんな子も目の輝きって変わっていくんですよ。

子供ってやっぱり本当にすごいなって思います。変わっていきますよ、本当に。

でも、どうして、元に戻っちゃうかですね…。
せっかく退院したのに、外で何かをやってまた少年院に戻ってくると、あいつは変わっていなかったとか言われるんですけど、僕はそうじゃないって思っていて、

確かにこの子たちが少年院の中で、イキイキと変わっていく姿を見ているし、それは信じられるんですけど、この子たちが帰る社会は何も変わっていないんですね。
もっと言うと、この子たちを待っている大人達は何も変わっていないわけじゃないですか。この子たちを待っている友達も。その中に帰ってしまうので、元に戻るのは早いです。

十何年間生きてきた環境を一年間で変えるのって無理ですからね。

その環境を、どのようにしてあげる必要があるのでしょうか? その大人たちと言いますか、その戻ってくる場としては。

あの、究極に言うと…もう戻さない方がいいんですよ。別の場所を探してあげる。
場合によっては一定期間、親元ではなく自立するまでに施設や職場の寮なんかで暮らして。社会に出ながら、仕事をしながら。

人間って本当に弱くて…環境が元のところに戻ったら、どんなに意思が強い人間でも大概戻りますよね?
大人でも、そうじゃないですか。

僕もそれなりに自立した人間だって、今は人に対して自信を持って言えるんですけど、それでも、実家に帰ったら、母親が全部やってくれるから、食器一つ下げないですよ(笑)。そういう自分に戻ってしまうんですよ、すぐに。

そうか、そうか、そこに戻ると瞬間に、その人間関係の自分に戻ってしまうってことなんですね。確かにそうですね。

そうなんですよ、それは大人も同じで。であれば、子供なんて尚更ですね。

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