福に憑かれた男【文庫】
2015/03/10
「福に憑かれた男」の文庫版
サンマーク出版より出版
<内容>
中高生から人気の高い学習塾「聡明舎」の創立者であり、自身も授業を受け持つかたわら、日本各地で連続講座「親学塾」を開催するなど幅広く活動する、小説家・喜多川泰さん。
彼が描き出す作品は、エンターテイメントとしてだけではなく、人生を楽しむためのヒントが隠されています。
突然他界した父親に代わり、実家の長船堂書店を継いだ秀三。
店舗を大きくすることを夢見ていた彼に訪れたのは、集客が激減するなどのピンチに次ぐピンチ。
「もう、やっていけない……」と意気消沈した秀三は、ついに店を閉めることを決意。
しかし、実はこれらの出来事はすべて秀三に憑いている“福の神”の仕業だった――! ?
【Officeはげっち淨德和正さんによる推薦文】
「必要は発明の母」困ったことが起きて必要に迫られることで、それがヒントとなり発明へとつながる。このような例はたくさんあります。
エジソンが電球を発明するまでにフィラメントの材料がなかなか見つからなくて何千回と失敗しているときに質問をされて返答した有名な言葉があります。
「私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」と。
ヨットは帆で風を受けて走ります。向かい風、追い風、
どの方向からの風も利用して目指す場所へ向かうことができます。意外に思われるかもしれませんが、ヨットが安定して艇速が早いのは向かい風のときなんです。背中から吹く追い風のときは、向かい風に比べてヨットの動きが不安定になります。
向かい風が吹いてくると、歩いていてもなかなか足が思うように前に進みません。でもそれが負荷となり足を鍛えていることでもあるのです。
『「福」に憑かれた男』は父から継いだ本屋を経営する秀三に近くに大きな書店ができたりとピンチが襲いかかります。
挑めばチャンス。逃げればピンチ。
向かい風のなかで福をつかんだ男の物語。
〈本文より〉
ただ残念ながら、この頃の秀三にはそんなことを楽しんでいる余裕さえなくなっていた。
来月、長船堂書店から自転車で五分とかからない場所に、県内一の大型書店の新店舗がオープンすることに決まっていたからだ。その情報をはじめて聞いたとき、秀三は血の気が引き、食べ物がのどを通らなくなるほど緊張し、胃痛がひどくなった。
自分の将来が真っ暗になったような気がして、どうしたらいいのか分からなくなった。
それからしばらくたつが、完全に思考が停止している。
『「福」に憑かれた男』より 13ページ