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椅子について

2022/01/13

自分の年齢とともに子どもも歳を重ねる。
当然、同世代の人の子どもも我が子と同じような年頃になってくる。

中高生を指導してきた経験から
子供が中高生になると、「こういう時はどうしたらいいのか」という相談を
知り合いからよく受けるようになる。

「最近子どもがゲームにハマってる」

高校生の息子を持つ人からそう言われた。
高校生くらいであれば程度の差こそあれ、誰もがハマったゲームの一つくらいはあるものだが
「どれくらいハマってるの?」
と聞いたら
「ゲーミングチェア(ゲーム用のイス)を買った」
教えてくれた。

それは相当だと直感した(笑)。

何かを極めたいと思ったときに
初心者にとって「イス」の優先順位はそれほど高くない。
「座れればなんでもいい」と思ってしまい、
それよりももっと直接的な何かに投資したくなる。
ところが熟練した人や、長くやっている人、ほんの少しでも上達したいと日々考えている人ほど
「イス」の優先順位は高くなる。

仕事で使う「イス」も同じで
「座れればなんでもいい」と思っていた人も
仕事をする人のことを考え抜かれたイスに座って仕事をするようになると
その重要さを痛感するようになる。

頭を使ってする仕事においては
身体の状態が疎かになりがちだが、脳は世界と身体でしか繋がっていない。
窓のない真っ暗な部屋の中に閉じ込められている脳が、外の世界のことを認識できるのは
身体という受信装置があるからだ。
つまり、身体の状態と脳の働きには密接な関係があり
最高のパフォーマンスを発揮するためには「身体の姿勢」というものが
最も適切な状態にあることが求められるということだ。

何年も前の話だが、僕も自宅のデスクで使うイスは
色々とこだわりを持って選んだ。
何しろ作家という仕事はデスクで作品が生み出されるわけだから
お金をかけるとしたらそこであろうと思った。高価ではあったがその価値は十分あったと思っている。
あるとき、あるオフィスを見学したら、新人だろうがベテランだろうが、全員が僕と同じ椅子を使っているのを見て驚いた。

少なくとも座り心地のいいイスを買うと
座るのが楽しみになる。それだけで仕事が楽しみになるのなら
そこに投資するだけの価値は十分にあるということだろう。