雪の花
2022/05/17
Book サロン「Ladybird」で皆さんにプレゼンをしていただいた作品と
ご感想が素敵でしたので、
「読書の広場」で紹介させていただきたいと思います。
作品は読み手がどのような人間性で、どのような状況にあって、
また、どのようなタイミングで読んだかによってその受け取り方は様々です。
その作品から自分が受け取ったものを共有することで
共感したり、「そこの部分を読み取れていなかった!」という
新しい発見をすることができたりと本当に楽しい講座となりました。
人それぞれ興味があるものが違うので、ご紹介いただく本の幅が広い!!
企画側の私たちにとっても新鮮な経験となりました。
今回はこちらの作品をご紹介いたします。
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喜多川の感想
人の命を救うために、これ以上天然痘による犠牲者を一人も出さないために、命がけで見つけ出した予防法も、当時の人の思い込みや偏見、古いものの考え方、役人の保身が原因で、なかなか理解してもらえず、せっかく持ち帰った種痘も種つぎすら困難な状況になる。それでも諦めなかった良策らの思いが繋がってのちに多くの人の命を救うことになる。自らの人生の役割に気づき、それに生きるということがいかに苛烈で、意志力忍耐力が必要で、そして尊いことかを思い知ることができます。端から見て、もしくは良策自身は、その人生を「幸せ」と判断することはなかったかもしれません。でも、そこから約200年が経とうとした今、良策の人生に触れた後世の我々は、彼に対して尊敬と感謝という言葉だけでは表せないほどの熱い思いを抱くのは確かです。彼の人生がなければ世界は変わっていたのですから。それほどに一人の人間が役割に生きるということは、当人の幸不幸を超えた大きな影響を与えるのだということを教えてもらえる。そんな作品ですね。素晴らしい本をありがとうございました。
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ご参加いただいた皆様からのご感想
「天然痘」耳にしたことはあっても根絶された今となっては我々にはピンとこない病。でもその恩恵にあずかっているのは江戸時代のしがない町医・笠原良策の人生を賭けた並々ならぬ努力の結果だということを知り、畏敬の念を抱かずにはいられません。
医師として成す術もなく遺体を積んだ大八車を見送るときの切なさや悔しさ。なんとしてでもそれを防ぎたいという言わば狂気のような情熱が立ちはだかるさまざまな壁を乗り越えさせたのだろうと思いますが、その一つ一つが壮絶すぎて息を詰めるように読み進めていきました。特に種痘という予防法が子供を媒体にしていくことでかなりハードルが高かったことは親として理解できる部分があります。ましてそれが異国から伝わった妖術だと聞けば我が子に施すのは恐怖以外の何ものでもない。コロナ禍の今、デマを含むさまざまな情報に翻弄される自分にも十分当てはまることだと思いました。そして身分が低いとされる町医に対する藩医たちの醜い嫉妬!(白い巨塔を思い出しました)保身に走る役人たちの無責任な沈黙。途中怒り心頭でした。無知と無関心、それに保身が加わるとどんなによいものであってもすんなりとはいかない。一番やっかいなのは「人の心」だと痛感しました。
でも!良策はやり遂げたのです。「あきらめたら終わり」はよく聞く言葉ですが、言うは易しとはこのことで、実際このレベルであきらめずにやり遂げられる人はなかなかいないと思います。特に京都から福井までの雪山の峠越えは想像を絶する奇蹟の荒業です。若い頃ヒマラヤで雪山9時間踏破の経験があるのですが、進化した防寒装備+自分だけの単独徒歩でもどれだけ過酷だったかを思い出すと本当に正気の沙汰ではない。狂気じみた執念のなせる業だとつくづく感じましたし、その思いが大いなる力のご加護を引き寄せたのかもしれないとも思いました。そこも深く深く感動した部分です。(共感共感 !(^^)! )
そして85歳の母も既に読み始めてます。最初のセリフが「そういや種痘の注射したなぁ!」当時は腕に6つほどしていたそうです。子供心に「牛から採る」に得体の知れない気持ち悪さがあったとか。いつの間にかしなくなったと話していましたが、調べると1976年が最終種痘だとあります。よく見れば私の腕にもうっすら残っている!(母子手帳も確認)喜多川先生も受けた最終世代じゃないでしょうか。さぁ当てはまる方は腕をご確認くださいませ。
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一押しの「雪の花」。胸をしめつけられる一冊でしたが、吉村さんの本に出会うきっかけをいただき、ありがとうございました。
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まさしく、今の時期に読むにはピッタリの本でした。良策はまさしく自分の使命と出会い使命を全うしたのですね。もとが東洋医学の出身と言うことで、まずそこを疑うことからはじめられた良策を凄いと思いました。これまで自分が築いた知識やプライドを一旦おくことへの勇気、それができたからこその、予防の隔離。執念はもちろん、素直さがないとできない偉業だと思いました。今、読むべくして読めてよかったです。ありがとうございました。
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致死率20〜50%と言われていた天然痘。奈良時代に流行した際には人口の25〜35%の死者が出たという説もあるほどで、治療法が見つかるまでは流行する度に多くの死者を出したという。
死者を運ぶ大八車の車輪の音が響く度に、医者として何にもできないというやるせなさを感じる町医の笠原良策の姿に、コロナの感染が拡大しはじめたころの医療従事者の姿が重なってみえた。
葛藤、心身の疲労いかばかりか。
つまらない見栄や、体裁などで断ち切られる道、
金銭的、物理的に遮られる壁、
期待を裏切る結果、
それら全てにくじけることなく奮闘する良策の強さに、
そして、唯一のすぐれた医学と信じて疑わなかった漢方医学から蘭学に切り替えるという素直さに
人間の凄みを感じた。
未知のウィルスなどへの恐怖や不安は、現代においてもなお、デマや誤った情報が溢れかえるなど混乱を招くのだということを私たちも思い知らされたばかりで、このタイミングで読んだからこそ深く感じることができた部分もあったかと思う。